復讐の芽 ***藤林長門守***
復讐の芽 ***藤林長門守***
混沌8
 城の周りに篝火がたかれる。30人ほどの忍者が忍んでいる。茉緒はゆっくりと城壁の近くまで来る。やはり背中に気配がある。城壁に鉤付きの縄を投げる。すばしりは危険を冒さず登り始めた時に行動を起こすだろう。石垣に足を乗せた瞬間爆薬が投げ込まれた。茉緒はすばやく反転する。至る所から忍者が現れる。
 影が草むらに逃げ込んだが、茉緒はもう走り抜けている。もう10人ほどの忍者が後ろを走ってきている。すばしりはこの警戒も知っていたのだろう。手裏剣が掠めていく。手投げになっているので怖くもない。目印の大きな木が見えてきた。ほとんど同時に後ろは煙幕で覆われる。源爺の煙幕には目つぶしも混ざっている。
 逃げ道の前を凛が走っている。半刻ほど走りづめで凛と並んで走っている。後ろからは1人の足音だけが続いている。凛の速さではこの辺りが限界だ。
「隠れろ」
 その声に凛の姿が視界から消える。
「すばしりか?」
 茉緒は立ち止まって背中の剣を抜く。すばしりが暗闇から現れる。
「よく分かったな?」
「お頭の命令か?」
「一存だ」
 彼も刀を抜いて構える。女忍は負けないと言う気持ちか余裕の構えだ。上段から切り込んでくる。茉緒は微かに体を引いてそのまますばしりの横を駆け抜ける。刀を交えないというのも自然身についてきている。
「どうする?」
「ここにいなかったことにする」






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混沌7
 片目の以蔵は下忍を5人連れて柘植に出かけてもう10日なる。すばしりだけが引き返してきた。掛田城の地図をこしらえろと言う伝令を受けた。どうも腑に落ちない点がある。掛田城にはすでに3か月前に同じ仕事を2人組の女忍が受けている。片目の以蔵は当然知っているはずだが。
 取り敢えず凛を連れて街道を薬売りになって国境まで来る。
「どうも後ろに気配がある。街道を外れて山側から侵入する。後ろの客も分かるだろう」
 山側に入ると凛には辛いが林の中を走り抜ける。途中で凛を草むらに潜ませた。茉緒はそのまま走り抜ける。やはりぴったりついてくる。だが途中で気配が消えた。それで凛の元に戻り別れて城の城下町に入る。
「何か変だよ。柘植のお館が来ている。なのに今地図を作る?それに城の周りは厳重な警戒だよ」
「これはすばしりの罠だよ。あれだけ走れる奴はいない。片目の以蔵も知っていてのことかどうかは分からないが。今のうちに逃げ道を作っておく。それと源爺から貰った煙幕を用意してくれ」
「これからどうする?」
「逃げ出せば命令違反にされるだろう。それにすばしりがどこに隠れているか分からない。陽が落ちるまで少し眠って置こう。城に近づくのは私一人でやる。凛は逃げ道の前で私が走って来たら煙幕を投げるんだ」
「それからどうする?」
「すばしりが何か仕掛けをしてくる。それで見張りの忍者が集まってくるだろう。彼らに切らせる気だ」
 すばしりは小頭になったが抜け忍仲間の評判は悪い。どちらか言うと若い忍者は茉緒のところに集まってきている。それにすばしりは茉緒の剣の業を見ていない。追いかけてきて切りつけてくる可能性も十分ある。









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混沌6
 戻ってくると誰も無口だ。母屋から魁の女房が離れの小屋に移される。不思議がる凛を引っ張り出して源爺の小屋に行く。
「お頭と幸作が殺されたのだな?」
 入るなり刀の手入れをしている源爺が声をかけてくる。
「抜け忍村は力だけがすべてを決めるさ。魁が7年前に片目の以蔵を引き込んで襲ってきた。それで引退したのだよ」
 凛が驚いた顔で見ている。
「次の小頭はすばしりだろう。あ奴には注意するんだ。村中の情報を集めるだけではなく、それに嘘をまことしやかに混ぜる。あ奴も強い奴にくっついていく。今この村では片目の以蔵が一番強いことになっている。だが茉緒の方が強いかもしれないな」
「どうして?」
 凛が問いかける。
「儂は夜中に山の中を走り回っている。この小屋では目くらましだけではなく、火薬も作っている。茉緒も知ってるように儂らは抜け忍村を出ては生きていけない。茉緒も片目の以蔵にも何度か抱かれたであろう。そうしないとここでは生きていけない。茉緒の剣の腕はよく見ているぞ。いずれ片目の以蔵とぶつかる」
 茉緒は黙って頷く。
「だがこれから伊賀は血を出しながら生き残るためにまとまっていく。抜け忍村もその流れに逆らえれない。今の以蔵ではこの村も生き残れない。儂は茉緒に掛けている」
「その時は力を貸していただけますか?」
「ああ」
 





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混沌5
 陽が上る頃藤林の屋敷から後ろ手に縛られて馬に乗った幸作の周りに、10頭の馬が囲むように街道を走る。小頭と茉緒はすでに最初の宿場町に到着している。すでに柘植からの伝令が戻ってきている。この男が抜け忍村では一番足が速い。お頭の伝令は足は遅い。これは片目の以蔵の企みが始まっている。
「ここの宿場で足止めを食らうだろう」
 彼は地図を出してきて、
「この峠に柘植の忍軍が30人ほど集められている。藤林は証人を失うわけだ。だが万が一幸作が生き延びることがあったら息の根を止める」
「証人が生きていると不味いのか?」
「柘植も服部も困る」
「抜け忍村も幸作を消さないと生きていけない」
「お頭は?」
「運が悪ければ巻き添えを食う。だから伝令を遅らせた」
 藤林の到着を確認してから小頭達は出発する。1刻も走ると峠の手前に着く。ここでもし逃げきたら幸作を殺すことになる。ここからは街道を登ってくるのもよく見える。2刻も遅れて馬を降りた藤林の忍軍が街道を登って来る。どうも服部に馬を下されたようだ。草むらから幸作の顔を見る。忍者に向かなかったと茉緒は呟く。
 峠を登りつめる手前に草むらから弓矢が飛び出した。5人がバタバタと倒れて残る5人が幸作を守るようにして下がってくる。幸作が懸命に走り抜けてくる。その時魁の頭が飛び込んでくる。8人の下忍の足が急に止まって魁だけが飛び込んできた形になった。茉緒は誰となく身構えた。
 小頭が走り出してそのまま魁の体を切り抜けていく。その足で取って返すと倒れている幸作の首をはねる。もうすでに柘植の忍軍の姿はない。下忍がゆっくりと追いついてきて魁の首を刈る。




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混沌4
 今回は幸作の救出はお頭の魁が出張ることになり、下忍7人を集めている。それより先に凛を入れ片目の以蔵が茉緒と下忍2人で先行して下調べする。翌日には三輪に着いたが、すでに幸作は藤林に連れられて行ったとのことだ。都度に伝令が送られる。ここで凛は伝令となって戻る。
 藤林の館には結界が張られている。小頭が屋敷から出てきた女中を捕らえて茉緒が変装して屋敷に潜る。小頭と下忍は逃げ道を作る。
 屋敷に入ると思ったよりピリピリとした雰囲気がない。番している2人が話声がする。
「あの下忍恐ろしく口が軽いな。爪を剥がすまでに喋った」
「明日は服部に送られるわ」
 どこまでしゃべったのだろうか。幸作が知っているのは柘植の依頼だと言うことだけだ。だが服部も送られてこられても困るだろう。これ以上は危険だ。引き返すと逃げ道が出来ている。峠の上の炭焼き小屋で小頭に報告する。小頭は聞くなり2人の下忍を走らせる。
「茉緒俺と組まないか?」
 迂闊に抱きに来ない。茉緒の背中には父の刀が背負われている。片目の以蔵はどうもとんでもないことを考えている。だが抜け忍が生きていくためには抜け忍村を離れられない。もう抜けるところがないのだ。軽く頷いた。すると蛇のように口を吸うと体の中に入ってくる。
「どうする?」
「明日伝令が戻って着次第教える」
 どうも柘植にも伝令を送ったようだ。柘植にとっても幸作が運ばれてくるのは問題だ。
 





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Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



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