復讐の芽 ***藤林長門守***
復讐の芽 ***藤林長門守***
魔王6
 弾正の茶室に入る。これは三好の屋敷の中に新築されたようだ。
「信長に抱かれたか?」
「いえ、でも話をしました。異様な力を感じました。京に入ると言ってました」
「京か」
 信長の手紙を見て天井を見ている。
「儂が京都を制圧するが早いか信長が上洛するが早いか?だが宗久は信長に掛けるようだ」
「三好とは?」
「小競り合いが続いているがけりをつけるわ。京に上がる準備をしておけ」
 凛から聞いたが小さな小競り合いが続いているようだ。三好勢は千、弾正は2千5百を配置している。だが四国から2千の本体が来るという。四国には実力ナンバー1の十河 一存がいる。
 茉緒が裏木戸から屋敷を出ると黒い影が降りてくる。茉緒は短刀を握る。慎吾だ。素早く町人に早変わりして料亭に入る。
「順慶から弾正を調べるよう命を受けた。六角には前の小頭の息のかかったものをすべて送った。六角はもう終りだな。三好と赤松が組んだ。藤林は筒井に鞍替えする」
「でももっと大きな力が動くよ。織田が京に入る。私達も急がないと」
「頭には毒を少しづつ飲ませている。最近はほとんど外には出ない」
「なぜ奥方にも飲ませない?」
「いいのか?実の母だろ?」
「母は父とともに死んだ」







テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

魔王5
 もう帰る日になって信長から茉緒に呼び出しがあった。清州の探索はすべて終わっている。
「弾正に興味がある」
 茉緒の顔を見るなり信長が突如言い出す。茉緒はあの小姓を抱いて天上を見つめていた目を思い出した。
「私は今井の」
「弾正の忍者だろう?」
 藤吉郎が慌てている。
「忍者は嫌いだが、必要なものだし、弾正の魔王には興味がある。天井から覗くのはどうかな?」
 気づいていたのか。それとも屋根裏に忍者がいたのか。
「おそらく弾正は畿内を握る。それまでに藤吉郎を弾正に引き合わせてくれ」
「弾正は畿内を?」
「あれはなかなかの策士だし、堺を握っている。だが天下を収める器ではない」
「織田殿は今川を破られた。次は京に上るのですか?」
「上る。だが天下を盗るには日本は広い。まだ歩き始めたばかりだ。でも時間はない」
「なぜそんなに急ぐのですか?」
「天下は熟れる時にしか盗れない。魔王も何かを盗るなら時間を大切にするのだ。さらばだ」
 信長はもう立ち上がっている。





テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

魔王4
 3日後に鉄砲や火薬を積んだ荷隊が出発した。藤吉郎の手のものが15人、いつぞやの鉄砲の名人に茉緒の忍者が5人。今回は茉緒だけが藤吉郎と並んで馬に乗った。実は弾正に織田家を調べてこいと命を受けたのだ。茉緒は表向き宗久の親戚の娘となっている。
 清州まで何事もなく着いた。町はまだ普請中の家が多かったが何よりも活気がある。城内には武装した兵が出入りしている。藤吉郎の話ではまだ親戚絡みの戦闘が続いているとのことだった。鉄砲の名人は翌朝から信長に試し打ちを披露している。茉緒は下忍を変装させて情報を集めさせる。
 2日目の夜には茉緒は信長の部屋を探し屋根裏に潜る。弾正に比べると端正な顔で若い。だが苛々しているのか青筋を立てている。小姓がいるだけで女気がない。あの藤吉郎に続いて鉄砲の名人が入ってくる。
「諸国での鉄砲の商いはどうだ?」
「まだ高価ですし実践の評価はありませんので10挺どまりの商いです」
「誰が一番買っている?」
「松永弾正殿です。我が主今井宗久との仲もございますので」
「まず100挺を揃えたい。戻り都合をするように」
 今回の30挺でも驚いているのに。信長は言うだけ言うと慌てて藤吉郎は名人を連れて下がる。信長は馬になった小姓の尻にまたがる。この時代は男の方が激しいようだ。だが茉緒は今までに見ない武将にあった気がした。






テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

魔王3
 茶室で弾正と今井宗久が茶の湯を楽しんでいる。茉緒は天井からそれを眺めている。しばらくして貧相な侍が入ってきた。宗久は弾正に紹介する。
「今話題の織田家でござるよ」
「今川のお館を討ち取ったという?」
 弾正の目が興味ありそうに光っている。
「藤吉郎と申します」
「鉄砲を売れと申されての?」
「威嚇にいいが戦闘ではな」
 弾正はあまり評価していない口ぶりだ。
「それが織田殿は大量の注文をしておられる」
「いえ、殿は将来は鉄砲の時代と申しておられまする」
「茉緒降りてくるのだ」
 宗久が声をかける。茉緒は声のかかるのを予想して着物を着ている。
「忍者でござるか?」
「魔王と呼ばれておる。この者に荷の警護をさせる」
「優しい女子ですの?」
「手を出せば首を取られますわ」
 茉緒はこの時が初めての秀吉との出会いだった。






テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

魔王2
 奈良の荷隊を連れて堺に入る。凛が迎えに来ていて久しぶりに同じ床で抱き合う。ここの今井の別荘を最近は常時使っている。
「魔王という頭になったのよね?」
「早いな。ところであれから弾正は?」
「完全に堺の商人を抱き込んで三好の一部も取り込んだよ。それと5日前に今川のお館が戦で殺されたの」
「誰が倒した?」
「織田信長って言う豪族だって」
「織田?聞かないな」
 将軍の話にも出て来なかった小豪族だ。
「明日は弾正は?」
「今井宗久さまとお客さんと会うことになっている。ここの茶室よ」
「将軍の手紙を預かってるの。どうもあちらこちらに書状を送っているみたいね。弾正には5分5分という感じだろうね。ただ三好は消えると踏んでいる」
「これからどうなるのかしら?」
「源爺が言っていたけど、強い大将に忍軍も付かないと生き残れない世になるって」
「弾正さまはどうなのかな?」
「それよりも藤林を先に乗っ取る」







テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

yumebito86864

Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



最新記事



最新コメント



月別アーカイブ



カテゴリ



検索フォーム



RSSリンクの表示



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QR