復讐の芽 ***藤林長門守*** 2017年02月
復讐の芽 ***藤林長門守***
天下の行方8
 茉緒の報告で和解の準備が慌ただしく始まった。了解を信長に取れば後は終わりだ。その伝令に秀吉はまたも茉緒の配下を使った。秀吉は茉緒が信長と繋がっていると思っているらしい。
 返事は京の別の下忍が持ってきた。城主の切腹と安堵の領地が少なかったようで秀吉自身が高松城に出かけている。茉緒はその配下に5人の下忍をつけたが、自らは本陣に残った。
「もう少し詳しく話すのだ」
「光秀さまは公家方と歌会を開かれました」
「その後は?」
「一人で眠られました」
「公家は?」
「飲み会をされていましたが盛り上がってたとか」
「そろりさまは?」
「徳川さまを探られていて服部と切り合いに。こちらからも5人が応援しましたが」
「そろりさまは何か?」
「警備が厳重すぎると。服部の忍軍が百人に増えてたそうです。それと光秀さまと何か約束をしたのではと疑っておられました」
 光秀と家康はそれほどの縁はなかったんだが。
「信長さまはもう京に?」
「2,3日のうちには本能寺に」
「京には武将が?」
「光秀さまだけです」
「今から戻り本能寺に詰めるように」
 何かが胸騒ぎがする。





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天下の行方7
 高松城に入って2月になる。秀吉は得意の水攻めを始めた。和解がなかなか進まないのだ。毛利の中で意見が分かれていることもあるのだが、高松城主が徹底抗戦を掲げている。秀吉は信長を迎えるので気が気ではない。水攻めが始まって茉緒らも城から引き揚げて毛利を探っている。
「ここは和解されたほうが?」
 安国寺恵瓊という僧だ。この男は度々秀吉と密会している。軍師だが野心が強い。
「そうもいかぬ」
「水攻めで1月も持ちません。それにその頃は信長が参ります。その時では和解は無理かと」
「無理か」
「もはや信長を止める勢力はないと。毛利が生き延びるには秀吉殿と組むしか」
「分かった」
 立ち上がったのは小早川 隆景だ。
「茉緒殿、ご覧の通りだ」
 恵瓊はわざと手の内を見せた。
「文で知らせるより茉緒殿の口からのが信頼されるだろう。将軍も懐かしく話されていた。毛利は信長殿の配下ではなく秀吉殿の配下になるとお伝えください」
「確かに。その代り毛利の忍者をお下げ下さい」
 茉緒の下忍が要所に5人配置しているが毛利の忍者は20人ほどがいる。
「魚住なるものが先導仕る」
 いつの間にか茉緒の前を軽く頷いて忍者が走り出した。







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天下の行方6
 中国攻めも思ったようにいかない。急に秀吉から内々に呼び出しがある。茉緒は情報を全力を挙げて収集してるが先月から秀吉の周辺に下忍を5人張り付けている。毛利の忍者が秀吉の暗殺を仕掛けているようだ。
「どうだ?」
「やはり毛利の手のものと思われます。2度ほど潜ったのものと手合わせしましたが伊賀ほど手ごわくはありません。現在の警備でよかろうと思います。でもそろりさまがおられれば」
「それがなあ。そろりは京に行っておる」
「秀吉さまの依頼で?」
「いやそろりの勘だ。だが儂もな。茉緒も同じ勘では?京に下忍を張り付けているそうだの?」
 そろりが隠れていたのか。
「確かに今の光秀はおかしい。お館さまは恐ろしい。だがみなはそれで走りまわっとる。だが・・・」
 自分達とは違うと秀吉は言ってるのだ。
「元々お館さまは光秀の将軍との間柄を利用された。次に朝廷だ。だがもう利用するものがない」
 話しすぎた顔になって、
「ところで京でそろりに力を貸してやってくれ。それから茉緒は高松城に入って和解の状況を調べてくれ」
「すでに仕掛けられた?」
「毛利ともな」











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天下の行方5
 姫路に入って3月になる。秀吉につくものが弱い。秀吉には表向きには荷隊の女主として仕えている。
「互いに密書が」
 下忍と薬売りを全員動員している。小競り合いはあるが情報戦だ。
「お頭」
 京に入れた女忍がわざわざ姫路まで来ている。
「このところ明智殿の行動が怪しいのです」
 あの日の将軍との会話を思い出した。
「朝廷の公家と度々密会されています。それと徳川殿とも。徳川殿には服部がびっしり囲んでいます」
「服部の勢力は?」
「徳川殿の動きに合わせて50人ほど。息子の半蔵が率いているようです」
「伊賀では?」
「しばらく伊賀を離れていた服部の豪族が村に戻っていて藤林や百地の残党狩りをしています。最近は凛さまが鉄砲隊を率いておられます」
 元気になったのだな。
「信長さまは?」
「近々京に参られるとか」
「しばらく明智さまに5人ほどつけるのだ」





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天下の行方4
 天上に潜ると将軍の部屋の上に来る。将軍の前に明智光秀が座っている。彼は元々は将軍の部下だったのだ。こうして二人で話すのもおかしくない。
「秀吉に毛利を取られたようだの?」
「早耳ですね?それより信長殿に詫びを入れないと」
「いや詫びない。今夜にでもここを出るわ」
「毛利ですか?」
「もう毛利しかない。朝廷は?」
「板挟みです。あの人には朝廷も将軍もないのです。裏門を開けておきます」
「また会おうぞ」
 光秀が部屋を出て行く。
「茉緒か?」
「毛利に行かれるのですか?」
「天下分け目だ。どうだ毛利は?」
「私の見るところ織田の相手ではありません。長島の戦いでまともな戦いは終わりです」
「毛利にも目がないか」
 珍しく将軍は力なく背中を見せた。







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天下の行方3
 利休から堺に出てくるように文が来た。1か月も抜け人忍村にいたことは珍しい。藤林の元の村には5度出撃した。親を失った子供を30人に5人の年寄りを引き取った。
 荷隊メンバーを入れ替えて堺に向かう。
「待ってた」
 利休の新しい大きな屋敷に入る。もはや堺の主だ。
「宗久さまは?」
「和歌山の鉱山に移られた。彼の時代は終わった。秀吉殿が姫路に移れた。毛利攻めだ。鉄砲と火薬を運び込んでほしいと言うことだ」
「それだけでは?」
「姫路の豪族を調べてほしいのだそうだ」
「毛利攻めは明智さまでは?」
「どうもややこしいことになっているようだな」
 最近の信長も秀吉も人が変わってきたように思う。利休が絡んでいる。利休には野心がある。
 茉緒は戻ると20人の下忍と薬売り10人選んだ。今回は情報戦の予感がする。それから何かと噂のある将軍を覗いていこう。京に一人で入ると明智軍に囲まれた館に潜り込む。いつになく警備が厳しい。





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天下の行方2
 朝早く凛に連れられて源爺が建ててくれた父と母の墓に手を合わせる。18年ぶりに二人は出会えた。これで茉緒の復讐は終わったのか。そうは思わない。父は私の肩に藤林の未来を背負わせた。藤林を守れ!その声が聞える。
「この横に慎吾の墓を作れ凛」
「いいの?」
 子供を抱いた凛が心配そうに尋ねる。
「いずれ3人で入ろう。子供の名は慎太郎でどうかな?」
 茉緒の名は包まれていた着物にその名があった。茉緒は慎太郎を我が子として育てようと思った。
「お頭服部のかどわかしです」
「よし鉄砲を持って5人を連れて行く」
 源爺の話では伊賀の乱の後再び服部が急速に領地を回復していて、子供をさらっては忍者を養成していると言うことだ。残念ながら百地も藤林も滅んだとされている。
 藤林の豪族の村はまだ残されている。もちろん成人の忍者はいない。年寄りと子供ばかりだ。納屋に子供たちが10人ほど繋がれていて年寄りが3人殺されている。服部の忍者が20人ほど納屋に集まってくる。茉緒は手を上げる。6発の弾が6人に命中する。更に連射を続けるが織田の兵と思ったのか抵抗もせず引き上げた。
「子供たちを抜け忍村に連れて帰る。しばらく藤林の領地に忍者を出してみよう」









 

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天下の行方1
 この戦いで4人を失った。筒井順慶も最後に2千の兵を失っている。途中で隊から離れてまやかしの森に入っていく。下忍が2人現れて先導してくれる。新しい洞窟を抜けるといつの間にか尾根道に出ている。さらに尾根道から細い小川を下ると鬱蒼とした笹の中に洞窟が現れる。
「大変だったのう」
 源爺の顔が母屋から覗く。座敷に上がると頭を床にこすり付けている凛がいた。
「女子を生んだのだなあ?」
「成敗してください」
「慎吾に女子の話を伝えたよ」
と言って懐の髷を凛の手に握らせた。
「私も肩を切られた。だが強かった。これも忍者の定めだな。許してくれ」
「まあそれほどにして」
 源爺が茉緒を上座に座らせる。
「織田が天下を取りますかのう?」
「今の勢いでは。宗久さまも見間違われた」
「これからどうしますか?」
「まだ何かが危うい気がする」
 信長の狂気が止まるところがない。今回の味方の武将の戦死は異常だ。秀吉ぐらいしか生き残れないかも。その中で抜け忍村はあるのだろうか。

 





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激動15
 翌日から容赦のない鉄砲の攻撃が始まった。予定通り海峡を九鬼の鉄鋼船が塞いだ。だがその意図が悟られる以上に激しい各地での戦闘で信長の将も倒れたすざましいものだった。だが信長は一歩も引かない。
 茉緒はもう1月も半島に小舟で乗りよせては縄橋子と寺の警備を探り、3つの道の先を調査した。いよいよ信長から出撃の指令が出た。鉄鋼船から初めての大砲が打ち込まれた。海岸線に下忍がすべて揃う。鉄鋼船の周りから兵を乗せた船が湧き出てくる。それまで海岸線を守るのが茉緒の役割だ。
「気付かれました!」
 断崖から忍者が何人も降りてくる。まだ船は来ない。茉緒は降りてくる2人を切った。だが下忍が2人鮮やかに切られた。慎吾の剣だ。もう20人降りてきている。これは防ぎきれない。鋭い切り込みがあり茉緒は岩に転がりながら下から切り上げる。ほとんど同時に飛び上がった慎吾の一撃を肩に受ける。やはり慎吾には勝てない。
「茉緒今だ!」
 どこからか声が聞えてきてすべるように着地目がけて突きを入れる。見事に心臓を貫いている。
「茉緒!」
 今度は慎吾からだ。
「凛によろしくな」
と言ってもう息絶えている。降りてきた忍者をそろりがなぎ倒している。船から鉄砲が打ち込まれ上陸してくる。それから1千ほどの兵が崖を登っていく。九鬼の水軍だ。大砲は待っていたように鳴り止んで更に水軍の上陸が続く。茉緒はいつの間にか消えたそろりを見て思い出したように慎吾の髷を切って懐に入れた。





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激動14
 敗戦が続く中続々と織田本軍の部隊が到着している。滝川軍の本陣が空けられて信長が最後に到着した。今回は秀吉も光秀も参加していない。これで包囲網は15万を超える。夜になって順慶と茉緒が呼び出された。
「もはや和解はない」
と信長が開口一番明言した。
「どうだ順慶?」
「包囲は穴だらけで相手の本陣が掴めてません。とくに弱いところです」
 これは茉緒が報告した地図だ。
「茉緒はどうだ?」
「これはまだ完成していませんが」
 これは相手の陣を地図に書きいれている。
「どうもこの半島にある寺が本陣ではないかと。寺からは3つの道が付いていて各陣に繋がっていると思われます」
 茉緒は3度この半島に登り地形を調べている。
「ここを攻めるには?」
「九鬼殿の鉄鋼船をこの海峡に陣取らせ大砲を打ち込めば効果が」
「崖から登ることは?」
「私の部隊で縄梯子を準備しますので船から鉄砲隊を上陸させては?でもここを攻める前に海峡を制圧する必要があります」
「分かった。順慶は各将と図ってくれ。茉緒は残れ」










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プロフィール

yumebito86864

Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



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