復讐の芽 ***藤林長門守*** 2017年01月
復讐の芽 ***藤林長門守***
伊賀攻め8
 伊賀攻めがついに始まった。利休は安全な岐阜に残ることとなった。茉緒は秀吉に頼み込んで隊の先導に組み入れてもらった。下忍の一人を途中で抜け忍村に文を持たせて走らせた。いよいよ新しい村に全員移動させて洞窟を塞ぐ準備にかかるのだ。
 秀吉の軍は百地館を落し伊賀に侵攻する。あちらこちらから夜討ちをかけられる。百地では2百ほどしか残っておらず鉄砲隊が討ち取っているのは農夫ばかりだ。
 秀吉は軍を止めてそこから侵攻しない。柵を築いて逃げ出てくるのを討ち取る気なのだろうか。茉緒は秀吉の陣幕に身を潜める。次々と野盗らしきものが戻ってくる。
「筒井順慶の軍が伊賀に入りました」
「信長さまもすでに」
「百地のお館の砦を焼き落としました」
「茉緒幕に隠れておらず顔を出せ」
 急に秀吉が声をかける。
「伊賀は終わりだな」
 やはり。こんなにももろい。
「儂は農夫をまで殺したくない。だが信長さまはそれは許さないわ。この先の向こうに忍者の裏街道があるだろう。そこから藤林を抜けて奈良に抜けられる」
 口だけ動かして、
「藤林の館も燃やす。そうしないと茉緒が睨まれる」
「いいのですか?」
「独り言さ」 
 茉緒はそのまま残りの下忍をまとめて裏街道を走る。

 














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伊賀攻め7
 伊賀は無法地帯と化したと噂が流れてくる。荷隊が伊賀に入ることはないという。岐阜に着くとわざわざ千利休を秀吉が迎えに出た。茉緒は利休の隊として城内に留め置かれた。宗久曰く利休の茶器は鉄砲の何百倍の価値があるという。部屋で休んでいると茉緒も夕餉に呼ばれた。
「魔王着物も似合うぞ」
 珍しく信長から声がかかった。
「私は堺の薬問屋の女将です」
「そうか薬は任せよう」
 秀吉が小声で何か伝えている。
「いつ出発できる?」
「明日朝には」
 伊賀攻めだ。茉緒は口が読めるのだ。
「筒井は?」
「5千を出します」
「総勢は?」
「4万を四方から」
「儂は鉄砲隊を2千を指揮して」
 信長自身が出る。伊賀忍は信長の恐ろしさを知らない。利休もこの話を聞きながら笑っている。忍者が生きる時代は終わるのだろうか。なぜ慎吾も凛も分かってくれないのだろうか。











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伊賀攻め6
「久しぶりだな」
 今井宗久が戻ってきて屋敷に呼ばれた。
「伊賀を引き連れているのは茉緒ではなかったのだな?」
「それで藤林を2分しました」
「それが賢い。伊賀は信長に押しつぶされる。本願寺では伊賀の応援の話がまとまらなかったわい」
「どうしてですか?」
「本願寺も一つではないのだよ。織田の包囲網が崩れてきている。それぞれが自分のことが優先だ。そういう私もそうだ。鉄砲だけでは飯が食えぬ時代になってきたわい」
 襖がゆっくり開いて坊主頭の男が入ってきた。
「紹介しようこちらが千利休さまだ。こちらは」
「よく秀吉さまから魔王さまの話は聞いておりますよ」
「さっそくだが千利休さまと茶器を護衛して岐阜に行ってほしいのだ」
「どうして私が?」
「信長さまに会える忍者は魔王さましかいないと秀吉さまが」
 今井宗久はそろそろ自分の時代が終わる予感がしているようだ。そう言う意味で千利休の繋がりは大切にすべきだ。それとこれからは藤林のお頭ではなく薬問屋の主の方がいいのかもしれないと思った。
 3日後は茉緒は忍者を5人入れた荷隊を組んで堺を出発した。









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伊賀攻め5
 茉緒は堺に入った。だが今井宗久は本願寺に行っていて今日は戻らないとのことだ。相変わらず双方に足を置く商人ぶりだ。茉緒は知らされていた浜よりの小さな薬問屋に入った。
 取り仕切っている女主人は昔の凛の仲間だ。昔は毒物を扱うくの一だった。それが薬草園からこちらに移ったのだそうだ。
「今ここには?」
「店には5人。薬売りが10人。後は忍者が宿で使っています」
「薬は薬草園だけでは足りないだろう?」
「はい。それで吉野からも仕入れています。それに火薬も扱います。これは宗久さまに扱うように勧められたのです。鉄砲と別に扱う方が儲けがいいのだそうです」
「凛のことは?」
「誘われましたが殺し合いは私には合わないのです」
「宗久どのから他に頼まれごとは?」
「堺の豪商の調査です」
「宗久どのらしい。それで注目は?」
「千利休さまです」
「何を扱う?」
「茶道です」
「茶道で戦国に生き残れるのか?」
「それが信長さまが熱心で秀吉さまは千利休を軍師のように使われておるそうです」





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伊賀攻め4
 伊賀の戦いに藤林のお館が指揮をしているという噂が広まっている。おそらく凛が頭巾を被っているのだろう。茉緒は戻ってから伊賀の徒党に参加すべきでないと豪族に伝令を出したが、相当数が村を出て参加しているという。
「もはや小頭も凛も戻って来ぬ。もうすぐ大戦乱が起こる。藤林の館には何人残っている?」
 女忍が今は取り仕切っている。
「薬売りの部隊が15人と屋敷に5人います」
「明日からでも引き上げて抜け忍村に移動させてくれ。今後は抜け忍村から薬売りの部隊を出す。荷隊は?」
「源爺さまが指揮されています。現在堺に1組が奈良の荷を運んでいます。それから」
と源爺の手紙を渡す。
 『伊賀での薬売りは中止した。国は戦闘で食べ物も不足している。働く農民も商人もいない。確かに伊賀が勝利しているが民はいよいよ貧しくなっている。忍者は戦うことしか知らないのだ。抜け忍村は戦乱のない堺や京都に足を置くべきだ』
 茉緒も同じ思いだ。慎吾と凛と別れるのは辛い。だがみんなを守るにはこの手しかない。
「私は3人を連れて今井さまに会ってくる」
「では奈良の荷を運んで行けばどうです?」
「そんなに便があるのか?」
「今は10日に1度は出ています。だから組も3つに分かれて往復しているのです。それに源爺さまが堺に宗久さまの力を借りて薬問屋を出されています」
「源爺もやるな」







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伊賀攻め3
 伊賀に入る。北畠の軍が町に溢れている。3人の忍者を藤林の拠点を探し出すように指示した。茉緒は北畠の陣に潜り込むことにした。北畠信意が床几に掛けて足を揺すっている。
「これだけの兵を出してまだ治まらんのか!」
「この国すべてが敵です」
「筒井からは返事はまだ来ぬか?」
「織田に返事をすると言っています」
 筒井は北畠信意を信用していない。ここは信長の命に従うだろう。だが今の事態は伊賀に有利に働くだろう。だが信長が動くと全滅は免れない。すぐに忍者から知らせが入った。藤林は奥の神社にいるという。夜を待って忍び込む。
 出動していた忍者が戻ってきて酒盛りをしている。茉緒の見知った顔が大勢いる。ここで小頭と話し合うことはできない。辛抱して深夜になるのを待った。酒盛りの座から小頭が立ち上がる。、神社から別棟の商店の中に消える。茉緒は慎重に屋根から天井裏に忍び込む。
「待たせたか?」
 部屋に入ってきた慎吾に蒲団の中の女が見事な乳房を見せる。凛だ!慎吾が慣れた手つきで凛の体の中に深々突き刺す。凛は大きく反応している。茉緒は唇を噛んでその光景を見ている。
「伊賀は破れる。戻ってくるのだ」
「姉さん!」
「それはできません」
「信長が出てくれば忍者に係らず伊賀は皆殺しになる」
 茉緒はその言葉を残し天井から消えた。





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伊賀攻め2
 筒井への道すがら伊賀の噂を集めてみる。伊賀連合軍の勝利の話でもちきりだ。北畠の8千が翻弄されているようだ。伊賀軍はいつ間にか2千に膨れている。茉緒が見ているが何を将来目指しているのか分からないしまとまりがない。
「どうだ?」
「やはり服部は宗家の軍が参加していません。服部の分家が一揆のように加わっているので指揮は百地が持っていると」
 今百地はこれと言った後ろ盾がない。
 筒井の城の警戒は厳しい。だが兵が出されている様子はない。茉緒は藤林を名乗り1刻も離れで待たされている。
「誘いは断ったはずだが?」
 筒井順慶が渋い顔で入ってくる。襖の向こうに侍の気配がする。
「小頭が来たのですね。今回のことで藤林を2つに割ると頭が決めました。藤林は今井の仕事に専念します」
「そうか」
 急に柔和な顔になる。
「実はなあ。ここも織田を選ぶ時になった。慎吾のように身軽ではない。藤林の頭も同じ立場だ。ここで織田に背を向けると一向宗になるしかない。彼らには領主はない。ただ屍の山をひたすら築いてゆく」
 順慶も考え続けただろう。
「これだけ教えてやろう。あの百地のお頭は偽物だ」
「どうして?」
「長らく百地は使ってきた。あれは息子の小頭だ」
 息子の小頭とは剣を交えたことがある。
「藤林もそう言えば疑わしいですねえ?」
 茉緒は笑って部屋を出た。やはりこの戦いはこれでは終わらない。










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伊賀攻め1
 藤林に戻ると茉緒は倉庫の鉄砲と火薬をすべて抜け忍村に運び入れる。妹御を筆頭に茉緒の軍を10人も連れて出た。女忍と年寄を繋ぎに残しておいた。源爺と話をして鉄砲隊20人を育てて貰うことにした。現在荷隊で出てる10人の組も抜け忍村に引き上げる指示も頭命で出した。
 それから奈良の荷を運んで堺に入り宗久から長浜の秀吉への鉄砲を300艇運搬を受けた。宗久は信長が鉄砲隊で武田の騎馬隊を破ったという話をしていた。北は今は一向宗一揆が治まっていないが流れは信長と見て秀吉と結びついている。茉緒は3人の忍者だけを連れだした。
「久しぶりだのう」
 秀吉が娘姿の茉緒をにこにこ迎える。
「これは忠告だが、伊賀の今の動きは不味いぞ」
 藤林が参加しいていると想像している。
「確かに今は北畠では伊賀が強いがほどほどにしておくことだ」
「信長どのが出馬されますか?」
「出るな」
 秀吉は感が鋭い。
「藤林のお館からは伊賀からの撤退を決めました」
「それが利口だ。ぶらりと長浜を見て回るとよい」
 茉緒が忍者を町に出しているのも承知の上だろう。






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騒乱12
 朝に農夫に扮した藤林の忍者をつけて丸山城の作業現場に入る。織田信長の次男北畠信意の現場の監視は意外に薄い。駆り出された農夫に異様な動きが見える。茉緒は男の農夫になり火薬が仕掛けられそうな場所を見て回る。すでに火薬が仕掛けられている。
 日が落ちて農夫達が引き上げて行く。だが暗がりには人の気配がする。茉緒もお同じように忍者に変わっている。藤林の中に混じる。
「兵は100人ほどしか残されていない。狼煙が上がったら火を付けろ。慌てるな。切り抜けろ」
 慎吾の声だ。茉緒は凛を探す。それぞれが分業しているが戦いになればどうだろう。半刻して狼煙が上がる。至る所で爆発が起こる。材木には火がつけられる。兵の間を忍者が切り抜ける。鮮やかな戦略だ。
 ようやく下の城から兵が湧き出てくる。作業現場からすでに忍者は出てしまっている。山の中を走り抜けると砦を潜る。壇上に百地のお館が頭巾被って床几に掛けている。今回の騒動の頭は百地だったのか。本願寺が絡んでいるのか。
 壇上に服部の豪族が上がっていて慎吾の顔もある。
「北畠信意の軍は8千人。当軍は1割に満たないが十分戦える」
 おそらくその準備はできているようだ。だがその後ろに信長がいる。信長をどうするかが飛んでしまっている。凛の姿を探すが見つからない。
 茉緒は急いで戻ることにした。頭として腹をくくる時だと思った。慎吾と凛と袂を分かつ時だ。走りながら涙が溢れてくる。







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騒乱11
 一人で抜け忍村を早朝出た。途中薬売りを呼び伊賀を歩き回る。
「服部は?」
「主要部隊は徳川に張り付いているようです。服部一門はそれぞれ勝手な動きをしています」
「藤林の繋ぎの場所は?」
「あそこの旅籠です」
 そこで別れて薬売りで合い部屋に入る。見たところ藤林の忍者は離れに2人いるようだ。夜になって天井裏に登る。2人から6人に増えている。凛の部隊だ。
「丸山城の築城現場を焼き打ちする」
「手勢は?」
「百地30人、藤林20人、服部50人が集まる」
 丸山城は織田が乗っ取った城だ。これが織田の戦略だ。ただこの流れは伊賀の侵略に繋がる。だがこの流れを止めることができるのだろうか。
「お頭は今回は反対してるとか?」
「それはみんな気にしている」
「最近は死者が増えている」
 茉緒は部屋に戻って目を閉じる。伊賀のために立ち上がるべきなのだろうか。だが抜け忍村は戦わない方針を出している。藤林を2つに割るべきか。夢の中で父が久しぶりに現れる。今は父はにっこり笑っている。





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プロフィール

yumebito86864

Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



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