復讐の芽 ***藤林長門守*** 2016年12月
復讐の芽 ***藤林長門守***
天守閣6
「小頭は街道の入り口に火薬を仕掛けてください」
 これは薬売りからの繋ぎが入った。遅まきに5百を弾正が送ったようだ。茉緒も正面の順慶の隊にもそのことを伝えた。いつでも反転できる体制を取って貰った。順慶の本体は裏道を登り山城を囲んで待機する。茉緒は下忍を2人連れて石垣を登る。小頭の情報ではこの城には7百の兵が入っているという。
 屋根裏に入ると広間の上に出る。ここは山添の弾正派の豪族の拠点だ。集まった国人が円座になっている。
「順慶の軍が千ほど上り口を登り始めていまする」
「5百を繰りだせい」
 その声で国人達が立ち上がる。
「攻める合図を送れ」
 下忍が走り出す。しばらくして裏門で爆発が起こる。茉緒は木霊で床几に座っている豪族の頭に話しかける。
「裏から千の兵が押し寄せています。弾正の兵は5百で足止めされています」
「何者だ?」
「順慶の手のものです。山添はすでに順慶と組みましたよ」
「順慶と話ができるのか?」
「兵を引いてください」
「分かった」
 結局順慶とこの豪族の話が行われ戦いは終結し順慶に従うこととなった。弾正の兵は小頭の火薬玉を受け引き返してきた順慶の兵に追い返された。これで筒井順慶は大和の国が見える位置まで進んできたことになる。










 
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天守閣5
 筒井順慶が再び弾正の豪族を攻めることになり、小頭が1組を連れて千5百の兵の先導をしている。順慶にはすでに修験者は別の地に去ったと小頭から伝えている。茉緒は別部隊を連れて山添に入る。ここは弾正とは何度か戦っているが順慶が取り込みを行っている。茉緒が前もって小姓として山添の豪族の屋敷に入る。
「これは筒井順慶さまのお約束の親書です」
 ここには4豪族が集まっている。山添では多数の国人で運営されている特殊な連合国で京にも近い。だが今回は弾正派と順慶派に分かれている。ここを制することは順慶が京へ大きく進むことになる。
「山添の独立運営を請け負うわけだな?」
「あくまでも京への通り道の確保です」
「同族の戦いにも兵を出さぬ」
「今回も単独で主要な弾正派の豪族を攻めまする」
 長老が用意していた順慶への親書を差し出した。
 茉緒はそのまま街道を見張っていた下忍を連れて順慶の本陣に駆け込む。すぐに順慶の床几の前に出て親書を渡す。親書を開いてしばらく見た後、
「攻撃を開始する!」
と順慶は立ち上がる。
 小頭が残して行った繋ぎが、
「裏道を見つけたようで道を確保しています」
と言い茉緒は順慶と話をして5百に倍の旗を持たせ正面を登らせる。本体を先導して裏道を旗も取り払い登る。






 




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天守閣4
 奈良から荷隊で米や火薬が運び込まれて、約束通り各豪族に藤林で引き渡す。新しい下忍が30人藤林の長屋に到着している。茉緒は今回より組頭制を引き10人から15人を単位に5組を編成した。まず1組を奈良から荷を運び堺の今井宗久の屋敷に送る。茉緒は藤林として3組を引き連れて藤林の北限の峠に結界を張る。
 柘植が50人ほどで街道を走っているという情報が薬売りから持たされた。小頭の記憶ではこの峠から越えて館に攻め寄せてきたことがあるという。服部からの指令だろう。現在服部の本体は松平に移動しているようだ。薬売りは年寄り女子供で30人ほど諸国に出している。
「麓まで来ている」
 凛が伝令を伝える。今回は凛が指揮する鉄砲組が初の実戦だ。それを囲むように慎吾が火薬玉を投げて2組を切りこませる。茉緒は頭巾を入れ替わり一下忍として峠の大木に登り鉄砲を構えている。遠目の茉緒はすでに山道を登る柘植の一隊を見つけた。指揮をしている男はまやかしの道に攻めてきた小頭だ。ぎりぎりまで引きつけて狙いを定めて指を引く。
 小頭が飛び上がるように後ろに倒れる。ほとんど同時に10艇が火を噴く。火薬玉が破裂する中を切り込み隊が飛び込んで行く。茉緒が木を降りた頃は大勢は決まっていた。偽の藤林と入れ替わり頭巾をかぶり坂道を降りて行く。小頭が引き揚げてくる。
「小頭を含んで20の死体を残し逃げました」
「鉄砲の威力は?」
「5人を倒しています」
 信長のようにはいかないが後10艇を取り寄せよう。














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天守閣3
 夜明け前には服部の一族の豪族屋敷を取り巻いた。一緒に出張った弟の言うには50人ほどの忍者が今いると言うことだ。正面に凛が藤林の頭巾を被り30人で火矢を打ち込む。茉緒と小頭が火薬玉を投げ込んで裏山から15人を率いて突撃する。元々兄の屋敷だったのだ。
 服部は攻めることがあっても攻められることはない。それだけに大混乱になる。出てくる3人を切ると部屋に入る。小頭も2人切って後ろに続く。豪族の頭が守られて出てくる。どうも表に相当逃げ出したようだ。
「何者だ?」
「藤林が屋敷を取り戻しに参った」
「小癪な」
 なかなかの腕だ。こちらの下忍が切られた。小頭が周りの守りを突き崩す。茉緒は深く体を沈ませて足払いをすると見せかけて刀を直角に袈裟掛けする。飛び上がった頭の股を割いている。
「どうだ?」
 凛の声色も大したものだ。
「半分ほど討ち取って残りは逃げ出したようです。こちらは2人だけを失いました」
 小頭が報告する。
「材木はすぐに送らせる。ここに入られい」
 藤林の襲撃は伊賀にすぐに轟いた。




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天守閣2
 清州に行きその足で下忍を2人連れ10艇の鉄砲と弾薬を藤林に運び込む。屋敷の外で凛と入れ替わって茉緒として鉄砲を運び込む。小頭の慎吾が待っていて妹御の部屋に通す。
「今夜藤林の豪族を集めました」
 茉緒はこのために藤林の口真似を練習してきた。おそらく首をはねた藤林もこうして父の真似をしたのだろうと思う。
 夜広間に小頭を含め幹部と豪族が7人円座で酒を飲む。
「服部についてはどうなさる?我が手で守るのはもう無理だ」
 これは最近兄の村を襲われた弟だ。藤林が返事を伸ばしてきて不満が充満している。
「これについては儂が自ら出張ろう」
「他の村の兵糧は?」
「奈良から運び込む」
「今後は?」
「筒井家に従う。それと堺の今井宗久の仕事を手伝う。それと下忍を30人割り当てるので出してくれ。これについては前金を支払う」
 藤林はかねてより下忍を徴収しては都度追い返していた。だから直轄部隊が減少している。それは資金が底をついているからだ。金は藤林が貯め込んでいたのをすべて吐き出した。会合が終わると満足げに帰って行った。
「明日服部の一門を攻める。下忍を30人集めるんだ」
 まず一つづつ実行していかないと付いてこない。
 











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天守閣1
「茉緒戻ったのか?」
 宗久の声で襖をあけた。部屋の中には秀吉が座っている。
「信長さまはすでに上洛されて弾正を始め畿内の豪族に会っておられる」
「儂が京を預かることになったわ」
 いよいよもって元気な秀吉だ。宗久は完全に秀吉と組んだにみえる。
「しばらくは信長さまは京に?」
「そうもいかぬ。すぐに武田との合戦も控えておる」
「更に100艇を運べと仰せられている。それで京までは我が手で運んでいるが、清州まではまた警護を頼む」
「別に10艇を私に。もちろんお支払いはします」
「忍者も鉄砲の時代ですか?」
「はい」
「これは秀吉の願いだが、弾正の堺屋敷を急がないが調査してくれないか?」
「織田さまが堺屋敷を?」
「信長さまが堺屋敷をねだられたのだ」
 信長は鉄砲と堺を手に入れたのだ。こんな時に弾正は大和の天守閣だけに目が注がれてしまっている。屋敷を出るとふわりと空から果心居士が降ってきた。
「信長は天魔だ。しばらく誰にも止めれまいのう。だが最後まで一緒だと地獄に落ちる。修験者をさらに奥の山に移した」
 どうも茉緒が修験堂襲撃を見ていたのを感じている。と言うことは弾正に後ろ盾がなくなったことになる。





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暗殺9
 茉緒は藤林のお頭として頭巾をかぶって小頭と藤林の館に戻った。茉緒は熱病と称して離れに入った。この周りは抜け忍で固めた。凛はお頭を救ったとして茉緒として部屋を与えられた。夜床下を忍んで凛とともに妹御の部屋に行く。
「この方は?」
「抜け忍村の妹分です」
 妹御はあまりにも似ている顔を見比べる。
「ところでこれからは?」
「藤林を立て直すのです。これでは服部に飲み込まれてしまいます。小頭は凛を連れて豪族の取りまとめをしてください。これからは筒井順慶と今井宗久を後ろ盾とします。織田と将軍は私が繋ぎます」
「茉緒は?」
「京の様子を見てきます。それと宗久から下忍2人を連れて鉄砲を買い入れます」
「それほどの金があるのか?」
「しっかり貯めています。今回は得意の火薬玉に加えて10艇を入れて鉄砲隊を作ります。これなら服部と渡り合えます」
「奥方は?」
「私が殺します」
 その夜、茉緒の夢の中に父に蛇のように巻きついている母を見た。憎しみを帯びた目で茉緒を睨んでいる。この人が本当の母なのだろうか。もう少し調べてみる必要がある。



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暗殺8
 凛と合流して藤林の領域の手前の谷に結界を張る。すでに谷に降りてくる慎吾に合図を送った。ここは百地の領域で最も警戒がいる。下忍に扮した慎吾が警戒のため先に走る。彼らは茉緒の張った結界から外に出てしまっている。その後から頭の一隊が降りてくる。
 一斉に藤林の下忍に2人ずつが切りかかる。茉緒はまっすぐ頭に向かって切りかかる。さすがに体力が衰えている。倒れて自分から頭巾を取った。その隙に胸元に手を入れる。得意の火薬玉だ。茉緒は素早く右腕を切り上げる。火薬玉を握ったまま腕が宙に舞う。空に舞ったまま腕が爆発する。
「藤林と知ってか?」
「偽物の藤林と知ってだ」
 茉緒は覆面を取る。
「百地か?」
「藤林の一人息子だ」
 その言葉と同時に飛びついて押さえつけて刀を首に当てる。
「どうして裏切った?」
「奥方に仕掛けられた」
「父を切ったのか?」
「刺したのは奥方だ。部屋にいた妻を含めた女中を皆殺しにした」
「父は?」
「逃げた。探索隊を出したが見つからなかった」
「藤林は私が継ぐ」
 首を切り離した。







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暗殺7
 順慶の軍は逃げるように退却していく。藤林はしんがり(殿)を守り下がっていく。慎吾も茉緒も足軽の格好で並んで歩く。
「山を下りきったところでお頭が藤林に戻る。これについては先程まで揉めた」
 口の動きだけで話している。
「どうして?」
「順慶の警護に10人を希望したのだが、お頭は自分を守るために10人を要求した。それで私の配下を5人入れた。その中に下忍として私も入る」
「藤林の成敗は私の忍軍でする」
「分かっている。合図を貰ったらしばらく姿を消す。だがどうするのだ?」
「藤林を殺したら私がお頭の頭巾をかぶる。だからお頭に付く5人はすべて殺すがいい?」
「前の小頭の部下だいい」
「慎重を期すために凛の部隊も呼んだ。凛を茉緒としてお頭を助けた抜け忍隊として半分藤林に連れて行く」
「だが奥方はどうする?」
「しばらく熱病で隔離する。私は京に行く。慎吾はその間に藤林の建て直しをして」
「今回でほとんど前の小頭の部下はいなくなる。弾正はこれからどうなる?」
「後ろ盾の今井宗久も離れて行ってる。今回は信長に詫びを入れたがまた隙を見たら牙をむくと思う。何より果心居士が見放した」
 茉緒は隊から少し早く離れて凛と合流する。









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暗殺6
 慎吾は戻って来ず明け方に順慶の兵が山道を登っている。どうも修験堂を攻めること決めたようだ。茉緒は下忍を起こし兵の後ろに張り付く。この道はかなり険しく馬などは使えない。おそらく藤林が先導しているのだろう。
 未明には修験堂が見えて燃え上がっている。茉緒は下忍を連れて回り道をして修験堂の裏側に出る。修験者たちの死体がおびただしく転がっている。奇襲は成功したように見える。獣道から崖を登る。修験者は至る所の洞穴に住んでいる。ここに逃げ込まれたら追い詰めるのは難しい。すでに戦闘が始まって1刻半になる。前方に朝陽を浴びた大きな岩山がある。筒井の旗がなびいている。
 茉緒が見上げたその時、にわかに黒い雲が湧いてきて雷が鳴り突風が吹いた。旗とともに兵が空に飛んでばらばら落ちてくる。果心居士がいる!
 兵が雪崩を打つように撤退を始めている。茉緒は草むらに身を潜ませて眺めている。順慶が兵に抱えられるように降りてくる。殿(しんがり)に藤林の忍者が修験者と戦いながら降りてくる。茉緒は下忍に手を上げて小頭を取り巻いている修験者に切り込んでいく。
「助かった」
「あれは何だ?」
「果心居士よ。誰も勝てないわ」
「あれが果心居士か。修験者も2百ほど倒したが筒井の兵も2百は失った」
「藤林は?」
「30人出したが半分は失った。お頭は本陣に残っている。やるなら戻る時がチャンスだ」










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プロフィール

yumebito86864

Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



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