復讐の芽 ***藤林長門守***
復讐の芽 ***藤林長門守***
抜け忍村1
「どうしたの?」
 またうなされて目が覚める。最近は猛火の中の夢を見る。急に襖があいて煙とともに黒い影が入ってくる。影は茉緒を抱えると床の中に潜る。あの床の中に洞穴が掘られている。横腹からねっとりと血が流れている。穴倉を抜けると小川に出る。
「また夢を見た」
 コツコツと戸を叩く音がする。まだ夜は明けていない。茉緒と凛は目を配って剣を握ると戸に手をかける。源爺が珍しく覆面姿で現れる。
「どうしたのですか?」
「あの柳生の兄の正体が分かったのだ」
 凛は源爺に水をくむ。
「もう15年前だがな、藤林の大火の探索を頼まれた。その時に奴が塀を飛び越えるところに出くわした。一刀を浴びせられたがあれは柳生の剣だった」
「裏柳生?」
「服部の依頼を受けて抜け忍村を調べに来た。服部は抜け忍村を消したいと考えているわ。片目の以蔵も馬鹿な男だ。彼らを出すと抜け忍村はなくなる」
 最近は茉緒を中心にわっぱ組が出来て、男女合わせて11人の仲間がいる。
「凛はあの女を見張らせるんだ」
「男は私が見張ろう」






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混沌12
 夜明け前に藤林に着いた。凛に逃げ道を作らせて慣れた屋根裏に潜む。奥方の部屋の上に屈む。まさに奥方が全裸で男に跨っている。男の枕元に頭巾が脱ぎ捨てられていて、醜い皮が置かれている。男の顔が天井を向いている。これは父の顔ではない。
 体を起こそうとすると首に刀を充てられている。
「あの女忍か?」
 口だけを動かす。
「私の前を歩くのだ。その明りの中に降りるんだ」
 この体勢では一瞬に首を切り落される。言われるままに明りの中に飛び降りる。降りるとそこにはあの時の妹御が小刀を構えている。男は飛び降りてくると茉緒の覆面を剥いだ。
「まあ兄によく似ている」
「あそこにいるのは藤林のお館ではないのですね?」
「そうだ」
「なら奥方は?」
「本人です」
 その答えと同時に廊下が慌ただしくなった。
「床から逃げなさい」
「また会いに来ます」
 床に潜ると凛の目印の裏木戸を抜けて林の中をひたすら走る。次の目印で跳び上がると後ろから来た忍者が撒き菱で転げまわる。





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混沌11
 片目の以蔵は戻ってから肩の傷から熱が出て母屋に籠っている。この最中に以蔵が引き込んだ女が兄という男を抜け忍村に引き込んだ。
「その男は?」
「お頭と同じくらいかな?どうしても兄とは思えないよ」
 凛が首を傾げている。
「抜け忍か?」
「あれは武芸者のような気がする。本人はお頭に柳生にいたと言ってるらいけど。調べてみようか?」
「それより藤林に付き合ってくれない?」
「また仕事?」
「いや個人ごとだよ。あの戦いで藤林の妹と会ったのよ」
「それで調べてみる?」
 凛には茉緒は自分が藤林の息子ではないかと話している。
「これから源爺に会ってからそのまま立とう」
 源爺の小屋に着くと珍しく洞窟の中にいる。仕方なく敷居に腰かけていると、凛が源爺が描いた似顔絵を見つける。
「これその兄の似顔絵よ」
「そうや。昨夜母屋に忍び込んで描いたのさ。どこかで会ったやつだが思い出さないわ。これから仕事かい?」
「藤林に潜り込む」
「気を付けろや。戦の後だからな」












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混沌10
 未明に片目の以蔵は下忍を10人集めて服部と藤林の国境に集結した。ここに茉緒も入っていて頭の横に詰めた。どうも服部が藤林の身内の豪族を攻めるようだ。街道口からは服部が50人、裏口から柘植が20人、尾根伝いに抜け忍村という配置だ。急襲だから藤林の館から兵は来ない。
 報告ではこの館には今は30人ほどしかいない。元々ここは中間派の豪族であったものが藤林の妹を貰ったので藤林側となった。服部としては奈良、堺への街道となる要の土地だ。
 合図の元に一斉3か所から攻撃を始めた。こうなると力対力だ。抜け忍が尾根口から屋敷に着いた頃は戦闘の最中ですぐに藤林の豪族のお館の首を取ったという合図が聞えた。尾根口から裏庭に入り込むと女人が娘の手を繋いで出てくる。だがその後ろに若武者が出てきた。あっという間に下忍が2人切り払われた。片目の以蔵も見事に肩を切られて倒れ込む。茉緒は刀を抜いてその若武者の一撃を躱す。相手は驚いたようにこちらを見ている。
「その方は藤林の妹御ですか?」
「貴様は女か?」
「通り抜けてください」
「私は慎吾」
「私は茉緒と言います」
 茉緒は頭を下げると裏庭に煙幕を投げた。それから気絶している片目の以蔵を起こして館の中に入る。
 結局1刻の乱闘で抜け忍村は4人の下忍を失った。服部は12人、柘植は7人と死者を出した。この後ここには服部の一族が入ることになる。そこまで追従しないと生き残れないのかと茉緒は思った。



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混沌9
 お頭の片目の以蔵は戻ってきたが小頭のすばしりは行方不明だ。片目の以蔵は一人の女を連れてきて魁の娘を追い出した。小頭不在のまま茉緒が下忍を5人まとめて名張の庄屋に頼まれて女人をさらった盗賊を襲う仕事を受けた。本来魁の時代はこれが本業だったのである。
 街道を抜けて盗賊のねぐらの屋敷を取り囲んだ。凛が庄屋の女中として下忍を2人農夫として米を運ぶ。茉緒と下忍は屋敷の屋根に上がり屋根裏から部屋を見て回る。盗賊は7人、娘は女中も入れて3人。打ち合わせ通り運び入れた酒に茉緒が作った眠り薬を入れた。
 屋根裏から部屋の中を覗く。3人の女は昨夜から回されていて股から血の匂いがする。こういうことはよくあることでそれで自殺することもない。盗賊の頭は動きから抜け忍と見られる。余程酔いが回るまでは危険だ。女を抱いていた男達が一人ずつ眠っていく。茉緒が合図の忍び笛を吹く。天井、入口、裏口から一斉に飛び込む。
「忍者か!」
 盗賊の頭が刀を抜いて天上から飛び込んだ下忍の肩を払う。すかさず茉緒の剣がその右腕を切り落とす。だが男は押し倒して来る。その背中を凛が力一杯に突き刺す。
「凛手柄だ!」
 それぞれの部屋から縛られた盗賊が集められる。凛は女たちを洗い清めてやる。下忍が庄屋に連絡を入れる。庄屋から手当てを貰うと盗り方に引き渡して引き上げだ。元々抜け忍が忍者と組むのには無理があるのだ。片目の以蔵は柘植と密約があるのだ。





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Author:yumebito86864
夢人です。『夢追い旅』『ぽろんの女』『空白』『刺青』と書き続けてきましたが、すべて古いノートから書き起したものです。今回は初めて時代物でこれは私の夢の中で永い時間をかけて育ったものです。



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